CSR活動
「ポリオのない世界まであと少し」
序章:まだ名もなき病
昔、人々は「小児麻痺」と呼ばれる謎の病気に怯えていました。それは、健康だった子どもが突然手足に力が入らなくなり、一生歩けなくなることもある恐ろしい病でした。
発症:流行と恐怖
1800年代、世界中でポリオの流行が始まります。ニュースにならないうちに、次々と子どもたちが倒れていきました。そして1900年代になると、アメリカやヨーロッパで大流行。「アイアンラング」と呼ばれる鉄の肺を使って生きる子どもたちの姿は、多くの家族の心に恐怖を刻みました。
研究者たちの挑戦
19世紀末、医学者たちはポリオの正体に迫ります。1908年、カール・ランシュタイナー博士らが原因はウイルスであると突き止めますが、特効薬は見つかりません。
研究者たちは諦めません。1930年代、アメリカではマーチ・オブ・ダイムス(10セント運動)という募金運動が始まり、多くの人々が研究を支援しました。
ワクチン誕生:奇跡の一歩
ついに1950年代、ジョナス・ソーク博士が「不活化ワクチン(Salkワクチン)」を開発します。次いで、アルバート・セービン博士が「経口生ワクチン(Sabinワクチン)」を開発しました。
ワクチンで多くの子どもたちが救われ、ポリオ患者は激減。世界中が歓喜に湧きました。
終章:根絶への道
現在、先進国ではポリオはほぼ根絶されています。しかし、世界の一部地域では、いまだ根絶には至っていません。地道なワクチン接種活動が続けられています。
その後、1988年には世界保健機関(WHO)による「ポリオ根絶計画」が立ち上げられ、多くの国でポリオは根絶されています。ただし、現在でもアフガニスタンやパキスタンなど一部の地域では根絶されておらず、世界中で根絶を目指した活動が続けられています。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団はとロータリーは、長年ポリオ撲滅活動で協力してきました。この関係は、ポリオの撲滅まであと少しとなった最終局面において、さらに深まっています。
世界各国の指導者がゲイツ財団とロータリーに加わり、ポリオ撲滅を達成するためにGPEIが見積もる活動不足金15億ドルを補うため、新たな寄付誓約 を発表しました。 ロータリーは、寄付目標を年間5000万ドルに引き上げると発表。ゲイツ財団とロータリーは2007年に協力を開始して以来、ポリオ撲滅に向けてともに約15億ドルを提供しています。
ポリオ撲滅を過去10年間の最優先課題としてきたと話すゲイツ氏は、現在もポリオが発症している紛争地域において未だに課題が残っていることを認識しています。「最も困難なことの一つは、一人残らずすべての子どもたちにポリオワクチンを届けること。しかし、紛争地域ではあらゆる関係者と信頼を築くことが難しく、予防接種が容易には進みません」
しかし、依然として紛争問題を抱えるアフガニスタンにはほとんどウイルスがないことを指摘。「ポリオを撲滅する唯一の方法は、政治的、宗教的、社会的な分裂を超えて協力すること。ポリオ撲滅活動の支援者がその説得を続けてきたからこそ、今、成果が表れています」
発症数がかつてないほど少ない一方で、ウイルスのサーベイランス(監視)と検出が困難になっています。「ウイルスを完全に食い止めるには、どこに隠れているのかを知る必要がある」とゲイツ氏。「新しいアイデアを生み出し、教訓を学び、新しい状況に適応していってこそ、ポリオをゼロにできると確信しています」
ポリオ撲滅活動に触発されたイノベーションは、ほかの世界的な健康キャンペーンに幅広い利益をもたらすことができる、とゲイツ氏。地域調査、病気の監視、医療従事者の役割拡大などの技術は、保健当局がエボラのようなほかの感染症を検出して緊急対応するのにも役立ちます。「それこそ、ロータリーの30年にわたる闘いで大きく期待が持てることです。皆さんは、史上最悪の疾病の一つを撲滅するだけではありません。最貧国が市民により良い健康とより良い未来を提供するのも支援しているのです」
ビル・ゲイツ氏の活動
Microsoft創業者で慈善活動家としても活動するビル・ゲイツ氏が「今後20年でほぼすべての財産を寄付する」と題したブログ記事を公開しました。ゲイツ氏は2045年までに2000億ドル(約29兆円)を寄付して貧困支援を加速させることを宣言しています。
ゲイツ氏は2000年に慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」を設立し、これまでに1000億ドル(約15兆円)以上を同財団に寄付してきました。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団の定款には「ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツの死後数十年で財団は終わりを迎える」という条項が含まれていましたが、ゲイツ氏はこの予定を早め、「2045年12月31日をもってビル&メリンダ・ゲイツ財団は永久に閉鎖される」と宣言。同時に、2045年までの20年間で同財団を通じて自身の全財産に相当する2000億ドル(約29兆円)を寄付することも明らかにしました。
ゲイツ氏が公開した自身の資産推移グラフが以下。2025年時点のゲイツ氏の資産は1080億ドル(約16兆円)ですが、今後20年かけて段階的に寄付を行い、2045年までに資産の99%を寄付する予定です。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団はこれまでポリオ根絶に向けた活動やアルツハイマー病の治療法研究、クリーンエネルギー研究などに多大な貢献をしてきました。ゲイツ氏は「今回の発表によってこれまでの活動に対する私のアプローチが変化することはない」と述べつつ、以下の3点を今後20年間の主要な目標に掲げています。
◆予防可能な原因による母親と子どもの死亡を減らす
1990年には5歳未満の子どもの死者数は1200万人もいましたが、2019年には500万人まで減りました。ゲイツ氏は予防可能な原因で死亡する子どもの数をさらに減らすことを目標に掲げ、栄養状況の改善やワクチンの開発およびワクチンを必要な人に届けるシステムの重要性を指摘しています。
◆次世代の子どもを致命的な感染症のない世界で育てる
ゲイツ氏はポリオとメジナ虫症(ギニア虫症)は今後数年で根絶できると考えているとのこと。また、2045年までにマラリアと麻疹(はしか)も根絶できると述べています。さらに、エイズの治療法確立や新たな結核ワクチンの開発なども目標に掲げています。ゲイツ氏は感染症のワクチンや治療薬のコストを下げてアフリカや南アジア、グローバルサウス全体に届け、健康格差を是正することを目指しています。
◆何億人もの人々を貧困から抜け出させる
ゲイツ氏は「人々が可能性を最大限に発揮するには教育が重要だが、教育の進歩は健康の進歩と比べて劇的なものではない」と指摘。ゲイツ氏は「教育の改善」をアメリカにおけるビル&メリンダ・ゲイツ財団の最優先事項として定めており、黒人およびラテン系の子どもや低所得層の子どもといった大きな障壁に直面している子どもの学習支援を進めています。ゲイツ氏は教育改善のために「教師が教室で最も重要なことに集中できるようにする新たなAIツールへのアクセスの提供」に力を注ぐそうです。
また、質の高い栄養源へのアクセスを可能とするために「厳しい環境でも多くの作物を生産できる種子」の開発を支援するほか、「デジタル公共インフラの支援」「包摂的な経済と競争市場を促進するための金融・社会サービスの支援」「医療・教育・農業のサービス品質向上を加速するAIの活用支援」「ジェンダー平等への支援」も約束しています。
ゲイツ氏は「本日の発表は私のキャリアの最終章の始まりとなります。私は中学時代の友人とソフトウェア企業を設立した頃から長い道のりを歩んできました。Microsoftが50周年を迎える節目を祝うために、Microsoftを通じて得た資産の寄付を約束することはとてもふさわしいことだと感じています」と述べています。また、「AIの台頭によってテクノロジーの進歩はかつてないほど速く進んでいます。世界は多くの課題に直面していますが、私は人類が進歩を遂げられると楽観視しています」とも語っています。
